Q:複合文化学科とはどのような学科ですか?
A:複合文化学科がめざすのは、さまざまな分野や要素にまたがる複合現象としての文化のあり方や性格について多様なアプローチを通して考察すること、そしてそのようなアプローチを可能にするスキルを身につけることです。それによって、これまでともすれば、固定化された狭い専門意識やそれに根ざす先入観・価値観によって裁断されがちであったハイカルチャーからサブ/アンダーカルチャーにまでいたる広範かつ多層的な文化のダイナミックな生成・変化・発展過程を、生き生きとまるごとすくい取ることが可能になるはずです。
このことは、これまでなかったような文化の諸分野を横断する脱領域的な創造性・批判性を持った人材を生み出すことにもつながります。そのために複合文化学科では、@スキルを身につけるための科目、A先端的なトピックに触れる科目、B歴史や場所・空間についての基礎的認識を習得する科目が準備されています。
Q:ちょっと抽象的で、まだピンとこない感じがします。教育学部の他の学科・専修のイメージは、高校の教科からだいたい見当がつくのですが、複合文化学科では具体的になにが学べるのですか?
A:皆さんは高校の教室から一歩外に出ると、TVゲームをしたり、「萌えキャラ」が登場する小説を読んだりして、いわゆる「仮想現実」体験も豊かですね。一方で、ファーストフード店などでバイトしたとき、「現実社会」のきびしさ・矛盾の洗礼もそれなりに受けたことがあるかもしれません。「複合文化学」にとっては、それらすべてが考察の対象になりえます。「複合文化学」は、こうした日常経験のなかにひそんでいる問題を発見したり、経験の背後にある思いもよらぬ歴史・文化を考察したりします。
とはいえ、「複合文化学」は高校での勉強を軽んじているわけではありません。複合文化学科では、国語や英語や物理学や世界史などでそれぞれ別個に学んだ知識を結びつけ、ひとつのネットワークに編み上げるスキルを習得することができます。このスキルは、大学卒業後に必ず役に立つはずです。
Q:こういう学科は、「広く浅い」知識のつまみ食いに終わらないでしょうか?
A:複合文化学科は、文化の複合性そのものを専門的に学び研究する場です。そのために複合文化学科では、@スキル Aトピック B歴史的・地理的知識や情報を柱とする練り上げられた体系的なカリキュラムが準備されています。それによって、複合文化学科で学ぶ学生は、従来の縦割り的な専門分野と少し性格を異にするとはいえ、「複合文化学」という一個の自立した学問体系を系統的に学ぶことになります。また、複合文化学という学問は、既存の学問とは異なり、ひとつの方法や対象にとらわれるのではなく、PCソフトのようにヴァージョン・アップしていくことが特徴です。しなやかに、しかし系統的に学ぶ、ということです。
Q:なぜ教育学部に複合文化学科が設置されるのですか? 「複合文化学」と「教育」はどう関係するのでしょうか?
A:理由は2つあります。ひとつは、「複合文化学」はいわゆる理系と文系の双方にまたがって文化現象を考察することをめざしています。早稲田大学の教育学部には、社会科学や日本文学から生物学や天文学にいたるまで幅広い科目が設置されており、「複合文化学」が育っていくには最適の土壌だからです。
もうひとつは、複合文化学科で扱う対象は、おしなべて新しく、ときには教員よりも学生の方が素材の収集力においてまさっていることもあるでしょう。たとえばジブリのアニメの場合、皆さんはそのデータをあえて集めなくても、中学生時代や高校生時代に獲得しています。このとき、教員は考察方法やプレゼンテーションの仕方や結論のまとめ方などを教示することができますが、素材の量に関しては学生が「教師」のポジションに立つこともあるかもしれません。「複合文化学」が求める知のコミュニケーション・モデルは、「教える者」と「教えられる者」とのポジションを固定せず、その都度のテーマに関して、情報量の多い者が情報量の少ない者に「教える」というフレキシビリティをそなえています。これこそいま、実社会で求められているスキルなのです。このような知のコミュニケーション・モデルを開発し実践していくことも、「教育」にとって必要なことだと考えるからです。
Q:複合文化学科と文化構想学部の複合文化論系はどう違うのですか?
A:教育学部の「複合文化学科」と文化構想学部の「複合文化論系」は、一見したところ、名称だけでなく扱う対象も似かよっているように思われますが、実際にはかなり違っています。
まず、複合文化学科は学科として存在しており、学生は1年次から学科に所属し、その履修プログラムに沿って学んでいくことになります。これに対して、文化構想学部・複合文化論系では、学生は2年次からこの論系に所属することになります。
この違いは重要で、複合文化学科の場合は1年次から専門を学んでいきます。1年前期から、「文化」、「外国語」、「情報通信」という学科の3本柱の学習が始まります。ちなみに、「英語以外の外国語」と「情報通信ネットワーク技術」を、「文化」に劣らず重視している点も、文化構想学部・複合文化論系との大きな違いです。
また、「文化」関係の必修科目も、1年前期から「複合文化学の建築物」→「複合文化学の道具箱」→「複合文化学の組立方」→「複合文化学の見取図」→「複合文化学演習」といったように、一貫して系統付けられています。
他方、2年次から始まる文化構想学部・複合文化論系は、「比較文学プログラム」、「言語文化プログラム」、「文化人類学プログラム」、「異文化接触プログラム」、「感性文化プログラム」という五つのプログラムに区分されていますが、複合文化学科にはこのような下位区分はありません。
こうした科目やプログラムの名称の相違にも示されているように、複合文化学科が文化の「複数性・複合性」や「多面的・多元的」アプローチを前面におしだすとともに、学び方も従来の「概論」的なものを後にまわすなどの新機軸を打ち出しているのに対して、複合文化論系は基本的には従来の枠組みを十分に活かしながら、地域・時代を超えて文化の構造を考究しようとしています。
このような相違は、カリキュラムにも端的に示されています。
Q:なぜ英語以外に、もうひとつの外国語を学ぶ必要があるのでしょうか?
A:四角の窓がひとつしかない家よりも、たくさん窓のある家のほうが快適かつ実用的で、さらに、それらの窓がいろいろな形をしているとしたら、なんだかワクワクしてきませんか? 窓がたくさんあれば、外の世界をより広い視野で見ることができますよね。英語が重要なことはいうまでもありませんが、世界を英語の窓からしか見てこなかった人は、英語の「窓枠」以上のことが、ひょっとしたら見えにくくなっているかもしれません。ですから、英語に加えて外国語をもうひとつ学び、あらたな視点から世界を眺め渡すことは、とても重要なのです。
Q:複合文化学科では外国語はどの程度のレベルまで求められているのでしょうか?
A:複合文化学科では、文化現象を考えるツールとしての外国語という考え方が基本になっています。いわゆる聞く・話すというコミュニケーション能力だけでなく、ネットで当該外国語を使って情報を収集する力など基本的な情報を読み解く読解力、自分の関心事について相手に発信する筆記力もふくめた広い意味での文化的なコミュニケーション能力を養います。
たとえば文学部や外国語学部といった学部では、過去の古い文学作品の理解や言語学的な勉強にある程度の時間をさきますが、複合文化学科の外国語教育では、現在の文化に焦点があてられます。もちろん、現在を理解するためには過去のテクストへの理解も必要ですし、文学作品にはある文化の価値や意味が凝縮されているのでそうした作品を取りあげることもあるでしょう。しかし、それらはあくまで文化という広い領域の一部であり、要点は外国語を使って文化にアプローチするという点にあります。
複合文化学科の外国語学習プログラムは充実していますが、文学部や外国語学部に比べれば、時間数はけっして多くはありません。しかし、文化現象に特化することで、少ない時間で文化的なコミュニケーション力がつくはずです。効率的にツールとしての外国語を身につけるというのが、複合文化学科の外国語学習のコンセプトです。
具体的にいえば、とりあえず4年間の学習で、「ドイツ語」「フランス語」「中国語」「ロシア語」「スペイン語」の各外国語において、検定試験の2級程度の言語運用能力の育成を目標とします。もちろん、複合文化学科のカリキュラムにはかなり自由度がありますから、外国語自体に興味関心のある人は、さらに多くの外国語科目をとって、外国語運用能力をいっそう完璧なものにすることもできます。
もう一度まとめていえば、外国語のオールラウンダーではなく、自分の関心のある文化現象に関して情報を収集し、発信できるスペシャリストを養成する、ということです。
Q:外国語を専門的に学ぶことと、演習(ゼミ)で複合文化的なテーマに取り組むこととの関係が、いまひとつ見えてこないのですが?
A:たしかに複合文化学科では、それぞれ異なる外国語を学ぶ学生が、履修外国語をかならずしも同じくしない仲間と演習の場で集うことになります。それはつまり、演習では特定の言語が共通言語とはならないことを意味します。
しかしそのことは、自身の研究発表において、学んだ外国語の文献を活用することを妨げるものではありません。文献読解の成果はおおいに披露しましょう。
さらに重要なのは、言語をたがえる相手に対して、相手に理解できる形で伝える・相手と理解を共有する姿勢をもつことこそが、従来の「○○語の文学」・「○○国の文化」といった文学・地域による縦割り的な区分を超え、「横への広がり」を生む柔軟で斬新な発想へと繋がるのです。
Q:「朝鮮語」を勉強したいのですが、複合文化学科で履修することはできますか?
A:複合文化学科では英語以外にもうひとつの外国語を専門的に学んでいきますが、現時点で選択できるのは「ドイツ語」「フランス語」「中国語」「ロシア語」「スペイン語」の5言語です。残念ながら朝鮮語を選ぶことはできません。
「朝鮮語」を学びたい場合には、上で選んだ外国語に加えて、オープン教育センター設置の「朝鮮語」科目を履修してください。オープン教育センターではその他に「イタリア語」「ポルトガル語」「アラビア語」「インドネシア語」「タイ語」「ベトナム語」「モンゴル語」「アイヌ語」などさまざまな言語を学ぶことができます。
Q:複合文化学科の基幹科目のカリキュラムが、「建築」あるいは「料理」にたとえられているのはなぜですか?
A:まさに「複合文化学」の理念を端的に表すためだといえます。
もし皆さんが家を建てるとして、まず足を運ぶのは住宅展示場あるいはモデルルームですね。そこで実際に「完成した家」(教員の研究成果=「複合文化学の建築物」)を見て感心・感動する。そして──じつはここがもっとも重要なのですが──、自分でも「こんなものをぜひ建ててみたい!」と思う(=皆さん自身によるテーマ設定)。建てるとなれば、かなづちやのこぎりの使い方(=「複合文化学の道具箱」)や設計方法(=「複合文化学の組立方」)を知らなければならない。遅ればせながら、自分の建てる家がたんなる自己満足や時代遅れにならないために、この「業界」の傾向や歴史(=「複合文化学の見取図」)も押さえておく必要がある。そして、建築設計事務所でせっせと修行しながら(=演習でのトレーニング)、ついには「わが家の完成」(=卒業研究)となるわけです。
また、ここまで見てきてわかるように、複合文化学科のカリキュラムは、たんに「建築」にたとえられるだけではなく、一般的・抽象的な「概論」や「入門」から入り徐々に具体的な「個別事例」を学ぶ従来の「積み上げ型」のカリキュラムとは逆の方向性をめざしています。このことはしかし、土台=基礎をおろそかにするということを意味しているわけではけっしてありません。複合文化学科は、大学における知の新しい「教育」方法も提案し実現したいと思います。それは、具体から抽象へ、イメージからセオリーへ、という「教育」のベクトルです。複合文化学科の学生は在学中にこの新しい「教育」方法を習得することができるでしょう。
Q:複合文化学科の講義や演習などで用いる現代思想系の諸概念についてまったく知らないのですが、ついていけるでしょうか?
A:まったく問題ありません。
現代思想とは、けっして難解なだけの理論ではなく、現在の文化現象を読み解くためのツールにすぎません。複合文化学科では、理論のための理論を学ぶことはしません。具体的な文化現象を通して、現代思想の諸概念を用いて分析していく力を養います。現代思想の諸潮流が、いかに現実の問題にリンクしているかがよくわかるでしょう。
基幹科目である「複合文化学の道具箱」や「複合文化学の組立方」によって、現代思想の概念がいかに実際の文化現象の分析に有効であるか、現代思想の多くの潮流がそうした文化現象を読み解くツールであるかということが、だれにでもよくわかるはずです。
Q:私はコンピュータにさわったことがありません。情報処理系の授業が一部必修になっているようですが大丈夫でしょうか。パソコンを買わなくてはいけないのでしょうか?
A:高等学校で必修の教科「情報I」 の内容程度は前提としていますが、入学してからでも遅くありません。パソコンに関しては、学生用だけでも3570台(2016年度)のPCを有する全学共通利用のコンピュータ教室があり、その一部は24時間学生に開放されています(22号館)。また教育学部eduシステムによりUNIX環境も利用可能です。自分のコンピュータを持つ必要性を感じてから、購入を検討されてはいかがでしょうか。
Q:どのような資格・免許がとれるのですか?
A:「ドイツ語」「フランス語」「中国語」「スペイン語」(「ロシア語」を除く)の中学校教諭1種及び高等学校教諭1種免許が取得可能です。
その他の資格としては他学科等の科目を履修することにより「図書館司書」「学校図書館司書教諭」「博物館学芸員」「社会教育主事」「社会福祉主事」の資格を取得することが可能です。
Q:夏休みや春休みに海外に語学研修に行った場合や、1年間海外の大学に留学した場合に、単位の振替がありますか?また1年間海外の大学に留学して4年間で卒業できますか?
A:夏休みや春休みの語学研修は、早稲田大学留学センター実施プログラムなど、しかるべき内容のものであれば「海外での外国語研修」として最大4単位まで複合文化学科の単位として申請することが可能です。また半年以上海外の大学に留学し、現地の正規授業科目を履修した場合は、現地で履修した科目の内容、成績に応じて、複合文化学科の科目に振替を申請することができます。この制度を利用することで、海外留学を含め4年間で卒業することも不可能ではありません。
Q:複合文化学科で学んだことは、実社会ではどのように役立ちますか?
A:実社会では、問題は、学校教育の科目にそって提供されるわけではありません。企業内である企画を立案して実行していくというプロセスでは、基本的に学際的で領域横断的、すなわち、「複合文化学」的な分析能力と総合力が要求されます。
社会や文化の動向を見極めるためには、社会学的見識が必要です。消費者のニーズを考えることは、社会心理学的考察であり、ときには精神分析的な視点も要求されるかもしれません。同じような企画がこれまでにあったかどうかも調べる必要もありますから、それには歴史学的な視点が求められます。安全性を考慮するには、企画が商品の場合は生物学や身体工学、建造物等の場合は建築学や都市計画といった自然科学的な配慮も不可欠です。商品を宣伝するには、メディア論的思考や記号論的センスも要求されます。実際に企画を実現させるには、さまざまな法律的な知識も必要でしょう。
事実、現代の問題の多くはさまざまな領域にまたがっています(たとえば、環境問題は生物学、経済学、建築学等に、また飲食の問題は、生物学、心理学、精神医学、歴史学、民俗学、文化人類学等に)。複合文化学科は、自分の頭で問題を設定し、多面的に考察していくことを学ぶ場ですから、「多様な条件や複雑な要素を考慮して行う企業の企画立案を、より幅の広い観点で行っているところである」ということができるでしょう。まさに複合文化学科は、実社会で要求されている多面的な思考を養う学科なのです。
なかには、「大学院進学を考えている」という人もいるでしょう。それも大丈夫です。多くの大学院で要求される各分野の専門性や外国語力は、複合文化学科でつちかった基礎力があれば十分対応できるからです。また、必修単位数が少なく設定された自由度の高い複合文化学科のカリキュラムを生かして、自分の関心のある分野の科目を履修していくこともできますから、いわゆる従来の専門性を深めるということも十分可能です。
Q:複合文化学科という、従来のオーソドックスな学科とは異なる学科に所属することによって、就職活動のときに困ることはないでしょうか?
A:とくに困ることはないと思います。むしろ有利に働くこともあるかもしれません。なぜなら、就職活動の局面では、どの学部・学科でどの専攻に属したかという「形式的」なこともさることながら、卒業研究等においてどのようなテーマに取り組んだかという、きわめて「具体的」な部分を問われることが多いからです。
もちろん、なにも就職活動のためのみならず、学生個々がそれぞれの関心にしたがいアクチュアルなテーマをもてるという点で、複合文化学科で学ぶことの意義は大きいといえます。
Q:複合文化学科を卒業するとどのような職種につけるのでしょうか?
A: 2017年度卒業生の進路状況は以下の通りです。
[複合文化学科2017年度卒業生の進路状況]
(卒業生報告データより抜粋)